やさぐれ獅子
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 宙を水平に飛び、加藤たちを追尾。彼らに接近するや否や、急落下。外れると、また浮 
き上がり追尾再開。 
 ペースを早めることも緩めることもせず、城は以上の行動を繰り返していた。 
 立ち止まってはならない。止まったが最後、ぺしゃんこに押し潰されてしまう。 
「はぁっ、はぁっ。とんでもねぇもん送り込みやがって!」 
「せ、先輩、私は置いて一人で……」 
「バカいうんじゃねぇッ!」 
 終わりなき逃避行。 
 城の威力は計り知れない。ひとたび密林に落下すると、木々は粉々に粉砕され、半ばミ 
ステリーサークルのような空間を形成する。 
 加えて、いくら逃げても城に止まる気配はない。 
「やっぱ、こっちから打って出るしかねぇか」 
「で、でも、どうやって」 
「乗り込むんだよ」 

 まず、二人は上空から狙ってくる城の入り口部分を確認した。 
「あそこか……。よし、次降ってきたら、あそこから中に入るぞ!」 
「オスッ!」 
 次にわざと的となり、城を落とす。 
 計算通り、彼らの目の前に入り口が落ちてきた。 
「急げッ!」 
 チャンスはほんの一瞬。城が浮き上がるより早く、彼らは城内へ滑り込んだ。顔を見合 
わせ喜ぶ二人。 
「やったな!」 
「えぇ、これで安全なはずですよ!」 
 中に入ってしまえば、潰される心配もなければ、逃げ回る必要もない。人心地がつき、 
ぺたんと二人は座り込む。 
 しかし、城はさらなる脅威を彼らにもたらすのであった。 

 しばらくの間、加藤と井上は息を整えていた。城の飛行速度は時速十キロだが、一般的 
なジョギングが時速八キロ前後で行われることを考えると、この城から逃げることがいか 
にハードであるかが理解できるだろう。 
「大丈夫か、井上」 
「はい、だいぶ落ち着いてきました」 
「まさかこんな試練が来るとは──?」 
 加藤がさっき侵入に使った入り口を見る。すると、雲がどんどん下に流れているのが分 
かった。つまり、城が上昇している。 
 またも、悪寒が加藤の背筋をなぞる。 
「まさか」入り口に向かい、外を見やる加藤。 
 次の瞬間、加藤は絶句した。 
「マジかよ」 
 この城は(狭いとはいえ)無人島が見渡せる高度にまで上昇していた。高度五十メート 
ルは確実だ。もう飛び降りることもできない。 
 もし、このまま永遠に上昇するとしたら──最悪の結末が目に浮かぶ。 
 遠ざかっていく地上を、ただ祈りながら見守るしかない加藤。宇宙遊泳なんかしたくは 
ない(そもそもこちらの世界に宇宙があるかは分からないが)。 
 ──やがて、城が上昇を止めた。 
「ほっ」同時に、ぽつぽつと浮かんでいた脂汗も分泌が止まる。 
 そして、汗は物理法則を無視して、天に向かって走り出す。 
 否、これはきちんとした法則に乗っ取った現象だった。 

 城、急速落下。 

「きゃあぁああぁあっ!」 
「やべぇっ……!」 
 何もかもが上に向かう。エレベーターで時折味わう浮遊感、あれの何倍もの感覚を二人 
は味わっていた。 
 というより、浮遊していた。 
 あっという間に二人は天井に叩きつけられ、さらに城の着陸と同時に床へ叩きつけられ、 
城は再び上昇体勢に入った。 
 加藤はというと、受け身を取りダメージもさほどではない。が、問題は井上。二度も高 
速で体をぶつけ、無事に済むはずがない。 
「あ、あ……。あ……」涙目で、ぐったりとしている。 
「井上っ!」加藤が声をかけても、井上は唇をかろうじて動かすだけ。 
 きっと城はまた今の攻撃を行うだろう。二回目はまず耐えられない。 
 井上を背中におぶると、加藤は必死に頭をひねる。 
(どうすれば、倒せる……?) 

 何もアイディアが浮かばぬまま、無情にも城は上昇を終えた。再度、急降下。 
「──うぐァッ!」 
 今度は自分をクッション代わりにし、加藤は井上を守った。とはいえ、人を背負ったま 
ま受け身が取れるわけもなく──全身を強く打ちつけられた。 
「ぐっ! いってぇ……!」 
 彼らに一切気遣うことなく、城はまた大空を目指す。もうあと一分もすれば、三回目の 
フリーフォールが始まる。 
 次に喰らえば、いくら加藤とてどうなるかは分からない。いつまでもクッションを務め 
上げる自信もない。 
「どっ……」 
 追い込まれた加藤。もう、あの人にすがるしかなかった。 
「どうすりゃ、どうすりゃあいいんだよッ! 館長ッ……!」 
 地上が遠ざかっていく。 



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