その名はキャプテン・・・
前に戻る
一話「その名はキャプテン・・・」
俺たちゃ海賊!俺たちゃ海賊!
最悪の目覚まし時計だ。延々とこんな叫び声が聞こえてくる目覚ましを贈りつけて来た
ブッチャーを叩き殺しにいこうか一瞬本気で考えた。しかし最近は悪党かぶれの海賊が増えてきて
その大半がブッチャーの手下にスカウトされているために戦力的に不利だ。
と、いうかこちらの戦力は海賊A(雑用)と腕っこきの槍・体術・大斧の三つの攻撃を使い分けるトカゲ人間、
ゲッコ族のゲラ=ハと新入りの死刑囚スペックだけだ。スペックはいつものように船を襲っていたら
海からいきなり出てきたのだ、叩きのめして手下にしたが倒した瞬間ヨボヨボのジジイになって驚いた。
俺の得意な水の術法「癒しの水」によってなんとか体力は戻ったようだ。しかしジジイのままである。
どうしようか考えているとゲラ=ハがちょうどパブから帰ってきて「詩人印の中華まんじゅう」
(税込み1個120円)を買ってきてくれた。ほとばしる肉汁が口ではじけ、やわらかな皮の食感はまるで詩人
の歌の様。と、評判だ。しかしこれのカレーまんバージョンは皮がガチガチでまったく売れていない。
肉も少ないし。早速食おうと思ったらムクリとジジイが起き上がった。そして一言「マンジュウ・・・」
と、口から放った。まぁこの前襲った船がどうやら帝国の船だったようなので金や装備は十分だったので
特にケチる必要もないので食わせてやった。そして食事が終わると健康的なジジイに戻っていた。
何者か問いただそうと話しかけようとしたらいきなり「モットクワセロ!」と叫んできた所を海賊Aが
「そんなにうまいか?このまんじゅう。俺はカレー味の方が・・・」言葉が最後まで続くことはなかった。
詩人のファンであるゲラ=ハが得意の槍で突き殺してしまったからだ。一点の曇りもない見事な突きだった。
しかし戦力は当然ダウン。正直強くはないが雑用係をまたスカウトしないとなると面倒だ・・・。
「こんな戦いばかりではありませんよ。」とゲラ=ハが決め台詞を放っている。完璧に敵と見ていた
ようだ。忠義も厚く、技もキレる最高の相棒だ。不器用なのだけが欠点だ。
まぁ、味方殺しももう馴れた事なので気には留めない。と、急に「グゥゥゥ・・・」と音がする。
どうやらスペックの腹の音のようだ。今のゲラ=ハの技を見て驚いたところに腹がなったようだ。
本人も自分の腹の音に気づいていなかった様だ。時間もたって冷静になったようなので何者か聞いてみた
が名前だけ教えて、
「メシガサキダッッ!」
と叫んでいるのでもう一度飯を買うようにゲラ=ハに言った。ゲラ=ハも武具の買出しに行き忘れていた
との事で一緒にスペックを連れて行って食事させることにした。俺は溜まったジュエルを持って職業師
の所に行くことにした。ジュエルとは様々な職業を教えてくれる「クラス師」と呼ばれる人へ職業を習得する
際に渡す石だ。何のために集めているのか定かではないが海賊としての技術を高めたり、新しい職へと
ついたりもできるので有効に使って武器術、法力の使い方、薬草の知識等。様々なものを教えてもらう、
というのがこの世界の常識だ。知識を学ぶための本は帝国図書館にしかない上やはり、独学より教師的な
役割の人間が居た方がいいのだ。まぁそんな訳で早速、船を降りて海賊の本拠地、「パイレーツコースト」
に降り立った。ゲラ=ハはどうせパブでまた、詩人まんでも買いに行ったのだろう。留守の人間がいないのが
心残りだがここら辺に俺に向かってくるのは調子に乗ったブッチャーの部下くらいだろう。2,3人程度なら
どうにでもなる。船を奪われ難いように少し離したところで碇を下ろす。数分ほど歩くと人が群がっていた。
何か騒ぎがあったのだろうか?近づいてみることにした。するとゲラ=ハとスペックがトランクス一丁で
街中を徘徊している変態に襲われていた。
「さぁ・・・リベンジといこうか。」
変態が何か喋っている。スペックの知り合いなのだろうか?取り合えず援護することにした俺は
懐から普段から愛用している手斧を取り出す。そして風向きを確かめ、ありったけの力を込め、
絶妙の角度で投げる。一般的にトマホークと呼ばれる斧の基本技だ。斧は弧を描くように変態に向かって飛び、
首から上を真っ二つ・・・にするはずが、なんと!かかと落としで弾かれててしまった。
確かに、回転している斧の起動を見切り、斧が逆刃になった瞬間に上、または下から叩けば被害は
抑えられるが当然常人技ではない。どうやらこの変態はかなりの使い手のようだ。俺の斧は無様に変態
の足元に転がっている。すかさずフルーレを出すが斧の方が得意なのだ。しかしスペアは船の中だ。
海賊達がいつ襲い掛かってくるやもしれないこの街で得意武器を忘れてくるとは不覚だった。スペックは
歯を全て叩き折られている。ゲラ=ハは変態の猛攻を防いでいたためか、疲労が激しい、槍使いなので
中衛が好ましいのだがスペックが今、前衛として機能しないためショートレンジで戦っている。得意の
両手斧は飢え死にしそうだったのでつい先日売り払ってしまった上に、体術は向こうが上。俺が来なかったら
危なかっただろう。接近して俺が前衛を勤めようとしたその時、観客の中から女の影が出てきた。そして俺は
究極の恐怖に襲われた。
な ん だ こ の 醜 悪 な 生 き 物 は !
ゲラ=ハは最初見たときカッコ良かったので仲間に誘ったのだが他の奴らは「トカゲ?テラキモスw」とか
抜かしてやがった。奴らにこの女を見せたらどんな反応をするのか?その女はとてもこの世に人間とは思えなかった。
目が今にも泣き出しそうなほど涙をためている。普通可哀相に見えるかもしれないがこの女は別だ。
目が四方八方に歪んでいる。人間じゃない。輪郭も同様だ。体の方は見事にスレンダーだ。それが逆に
顔とのアンバランス差を増幅させている。サンゴ海を荒しまくり、善人はまぁ無暗には殺してはいないが
数多の人間と体中が真っ赤に染まるまで戦い抜いた俺もこんな化け物を見たのは初めてだ。恐怖で体が硬直
している俺にその化け物が話しかけてきた。
「卑怯者ッッ!」
何を言っているのか?恐怖と相まってさっぱり分からなかったが冷静に考えてこちらから襲った可能性を
探ってみることにした。ゲラ=ハはいきなりケンカをふっかけるほど凶暴ではない。鋭い牙と短くキュートな
尻尾を持ってはいるが冷静沈着、常に適切な判断をする奴だ。そんな事をするとは思えない。スペックか?
とにかく、状況を確かめるために恐怖をこらえてその化け物に話しかける事にした。
「お、オタクの兄ちゃんが手を出してきた訳じゃなければ俺は連れと一緒に船に戻るぜ・・・。」
足が震える。声も枯れながらも話しかけた。すると・・・
「やらせるかッッ!」
大声で化け物が叫ぶ。ビクッ!と体が震える。先ほどより顔の歪みが激しい。口の形が判別できない。
「させるかッッ!そんなことッッ!お前らの好きにッッ!させるもんかッッ!」
そう叫びながら殴りかかってくる。威力は大したことはない、肉体的には。精神は凶悪なその化け物の顔に
とらわれ俺の精神はズタズタだ。こんな近距離で攻撃され続けたら殺される。逃げたい、しかし
足が動かない。意識が遠のきかけたその時。
「もういい。」
変態が化け物に話しかける。内心救われた。
「勇気を、もらった。」
と言って化け物を抱きしめる変態。は?何が?地面が起き上がってきてワケわかんねぇ・・・
ってなるとこを想像してしまった。勇気って?俺がこの化け物の顔に耐えたことが勇気?あ、化け物の涙が
俺にかかってる。石化かなんかでもしたらたまらない。すぐに拭こうと袖で拭っている時に変態が
「あの・・・海賊さん。」
と話しかけてきた。化け物は変態の胸に埋もれて泣いているので顔を見ずにすむ。しかし化け物を抱きしめ
にいった変態からはなれて休憩を取っていたゲラ=ハが運悪く化け物の顔を見たようだ。冷静なゲラ=ハ
のキュートな尻尾がいきなり千切れた。2,3日で生えてくるだろうが恐怖は一生残るだろう。心を落ち着かせ
会話に踏み切る。
「あぁ・・・どうかしたのかい?兄ちゃん。」
よし、冷静な心を取り戻したぞ。これで変態がまともな奴なら話ができる。しかし、トランクス一丁の変態だ。
油断はできない。
「じつは・・・」
変態は事情を話し始めた。この変態の名前は範馬刃牙。中々の苦労人のようだ。話す必要の無い身の上まで
聞かせてくる。どうやらこの変態は父親に母親を殺され、復讐のために強くなろうとしているようだ。そして
その途中、強力な毒を使う相手と出会い、猛毒に侵されてしまったようだ。毒に頼ったその相手は格闘家の
本質を見失い、あっけなく集団リンチにあって悲劇の最期を終えたという。しかし、その相手が倒れたから
といって毒が治るわけも無く治療法を探した所、知人に「逆の性質を持つ毒を使う強敵と戦え。」と言われたようだ。
自然界の物を利用した毒なので人工的な毒を使う相手、と言うことで。凶器、毒物に精通した人間を探していた
ようだ。そこで目を付けたのが牢獄に入れられるような悪人である。とはいっても刑が決まっている悪人に
襲い掛かるのは国の規律が乱れるので警備職について脱獄犯に襲い掛かることにしたようだ。これなら最悪
殺しても問題ナシ。と、いう訳だ。よく見ると体に妙な色の痣がある、まだ毒になって間もないのだろう。
「ほぉ〜、そうか、しかしあいつの戦闘方法は素手による物だ。毒物なんて使わねぇよ。」
これで丸く収まるだろう。やっといつもの暮らし(海賊業)に戻れる。そして変態も納得したのか
「分かりました・・・どうもご迷惑をかけました。では、これで。」
と、言って化け物と一緒に去っていった。あ、そういや水の術にステータス異常治すのあったな、まぁいいや。
またあの化け物に会うのやだし。と考えていた所に
「キャプテン、無事ですか?」
とゲラ=ハが話しかけてきた。あの化け物のショックからは回復したようだ。帰り際に顔が見えたが
普通のどこにでもいるブサイクな女だった。素の状態でも吐き気を覚えたがあの歪んだ時の顔はもう
二度と見たくは無かった。取り合えず早く船に帰りたい。疲労で立っているのがやっとだ。変態は冷静
だったが精神はギリギリだったのだろう。スペックを連れ帰るのを忘れたようだ。こんな大男背負う
体力はない、紐で結んで引っ張って船まで運んでいった。目が覚めるとゲラ=ハの強さに惚れ込んで海賊に
なりたい、と申し込んできたのだ。そして今、こうして俺とサンゴ海の海賊として旅船を
襲っているのだ。そう、そのキャプテンこそこの俺!キャプテン・ホーク!
・続きを読む
・作品補完庫TOPへ
・TOPへ